Prologue 2/7



七 「…はい?」

聞かれたところで、
男たちはなんと答えたらよいのか解らない。

中 「…ん?」
永世「…まあ、会ってるっちゃ会ってるのかな。2人称? 違うな」
中 「違うね」

うっすらと、
バカな空気が浸食していく。

七 「そういうことじゃないのよ」
中 「違うらしい」
永世「ポエム? 違うね」
中 「違うね」

ちょっと濃い目に、
バカな空気が浸食していく。

七 「私。私に会ったの」

バカな空気に抗う七。

永世「精神世界的な?」
中 「違う… いや、間違ってないかも」

バカな空気は正解を導き出させない。

七 「それで、これをもらったの!」

3人、CD-R を見る。

中 「…何?」
永世「何のファイル?」
七 「…うまく説明できない」

七は頭をかきむしる。
男たちは顔を見合わせる。

中 「ゆっくりでいい。解るように言って」
七 「いやだ!」
中 「おお」
永世「ここででるか。七イズム」
七 「うそ。言う」
中 「まあ、いつでもいいけど」
七 「だから、中が電話しにいって。永世がトイレ行って。…そしたら、女が入ってきて」
中 「女?」
七 「どっかで見たことあるなーって。よく見る顔だなーって。あれ? 誰だっけ? 知り合いだっけ? 毎朝、この顔に口紅塗ってるなーって。…いや、私だ! って」

七は何もない宙を見ながら説明している。
カクカクと動く姿が操り人形のようだ。

中 「七なの?」
七 「だから言ってるじゃない!」

七の拳が、
中の肩口を捉える。

中 「うっ…」

悶絶する中。

永世「…ドッペルゲンガー」
中 「何?」
永世「だから、ドッペルゲンガーなのかなって」
中 「ドイツのサッカー選手?」
永世「違うわい。ドッペルゲンガー。自分の姿を第三者が違うところで見るとか。自分の目で、違う自分を見ることだよ」
中 「ベッケンバウアー」
永世「それ、サッカー選手だろ」
中 「…ん? それ、有名?」
永世「有名」
中 「ベッケンバウアー?」
永世「学習しないの?」
七 「ドンペリカイザー」
永世「お金持ちだこと。ドンペリの皇帝はかなり偉いだろうね」
中 「イッペンカイザー?」
永世「なれるならね。いっぺんでいいから皇帝になりたいもんですよ」
七 「ドンペリダレカー」
永世「おごって欲しいのか? ドンペリ、誰かーって。おごってくれる訳ないでしょ。高いんだから」
中 「ペリカンドコダー」
永世「動物園にて」
七 「カニカンサイダー」
永世「超不味そう」
中 「シンケンタイガー」
永世「逃げないと。食べられちゃう」
七 「えっと、えっと…」
永世「もういいわ!」
中 「…永世は難しいこと知ってるね」
永世「後半、関係ないだろ」
七 「で、何?」
永世「本当に知らないの? ドッペルゲンガー現象。もう1人の自分を見ると、死期が近いって言われてるんだ」
七 「四季? 劇団?」
永世「違うわい」
中 「難しい単語で混乱してるんだよ」
永世「簡単に言うと、自分のドッペルゲンガーを見た人はそのドッペルゲンガーによって殺されるという言い伝えがあるの」
中 「ほう」
七 「…私、生きてるよ」
中 「ほう」

バカな空気は、
人のやる気を根こそぎ奪う。

永世「ああああ。ドッペルゲンガーって言わなきゃよかった」
中 「…その、とんがり坊やーではなさそうだね」
永世「そろそろ怒るよ」

七、立ち上がる。

中 「何?」
七 「話題を取り返す!」
中 「ああ。ごめんごめん。永世が訳解んないこと言い出したから」
永世「はいはい。すいません」

七、CD-R を掲げる。

中 「七は CD を手に入れた」
永世「ゲームか?」
七 「私が私に言ったの。ここに私の3年後のことが入ってるって」
永世「3年後?」
七 「私が私に言ったの。『中を見なさい。そして、未来を変えなさい』って」
中 「未来?」
七 「だから、言ってやったわ。『お断りよ!』って」
永世「でた、七イズム」

中、七の額を触ってみる。

中 「熱はない」
永世「ほう」

熱じゃないということは…


物語は始まらない。
これはまだプロローグ。


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